『日本の祭り』

この本は神社検定の新しい公式テキストだ。今年開催される参級の検定のテキストになるし、壱級のテキストにもなるかもしれない。(壱級のテキストになるかどうかはちょっと曖昧だ。壱級の範囲は全てのテキストであると書いてあるが、今年の参級の為に導入されたテキストが含まれるかどうかは明らかにされていない。入る可能性に配慮して、読んだ。)今年の参級の試験の設問の4割り程度はこのテキストに基づくようであるので、評価は二つの側面から行う。一つは本自体として、もう一つは初級の検定のテキストとしてである。

本として、高く評価する。内容は、全国の神社の特殊神事だから、神道の多様性が浮き彫りとなる。さらに、有名な祭りも含まれているが、それほど知られていない祭りも掲載される。有名な祭りとして、今宮戎神社の十日戎や高山市の祭りを挙げよう。高千穂の夜神楽も描写される。一方、東京都板橋区の神社の田遊びも詳しく紹介される。青森県から沖縄県までの祭りが載っているので、地域性も味わえる。そして、季節の祭りや芸能とかかわる祭り、山車や神輿を重視する祭りも載っている。多種多様な祭りなので、神道を統一された宗教や習慣として受け取れなくなる。

このような内容が入門書に載るのは喜ばしいと思う。入門書は普段一般的な内容を紹介するが、それは欠点であると言えないだろう。入門書は、比較的に短い本の中で基本を紹介することを目指すので、一般的で平均的なことを紹介するのは当たり前で、役割でもあると言えよう。しかし、多様性が著しい分野の入門書の問題にもなる。事実以上の統一的な印象を与えるからだ。この本で、神道についてそのような印象が払拭されると良い。

もちろん、神道の多様性の全ては紹介されていない。神宮の祭祀がほとんど登場しないし、日光東照宮、鶴岡八幡宮、金刀比羅宮なども登場しない。つまり、多様性のごく一部が紹介される。しかし、有名な神社や神事が載らないからこそ、神道の多様性について強い印象を与える。本に載った多様性に加えて、他の本で読んだ多様性があるからだ。さらに、地元の神社の祭りに参加する人の大半は、他の特殊神事を知っているはずだ。特殊神事は一切ない神社こそは少数派であるからだ。

多様性があるが、共通点も見えてくる。芸能や神楽、山車や神輿、神饌などは具体例だ。祭りは神様のもてなしである説は裏付けられる。ただし、この点はテキストとしての評価に関連する。

初級検定のテイストとして、適切ではないと思う。なぜなら、勉強することは大変であるからだ。体系はない。ただある神社の祭りの描写、そして次の神社の祭り、そしてまたの祭り。全てを暗記するのは無理だ。300ページを超える本だ。一方、重要な点を見いだすことも無理だ。一つの祭りの中の重要点はどこ?祭りの優先順位は?さらに、入門書であるとしても、他の本から類似する譲歩を得ることはできない。だから、この本が2月に出版される前に内容を勉強することは無理だった。このような内容を学ぶのは大変難しい。

この結果、今年の神社検定参級の平均得点が激減するのではないかと思う。合格率は70%にする規定があるが、そうなる確率は高い。

検定の開発に携わったことがあるので、開発側から見れば利点は多い。まず、本の内容の大半は『皇室』という季刊誌から転載されているので、執筆の手間が省かれた。そして、設問は簡単だ。四者択一に納められる内容は非常に豊富である。しかし、去年の一昨年の参級の試験は初級として相応しかったが、今年について疑問を抱く。

そう考えても、本についての意見は変わらない。神社検定を受けるつもりであれば、必読だ。他の本から必要な情報は得られないので、読まなければならない。そして、検定を受けるつもりはなくても、神道について貴重で珍しい情報は豊富であるので、ご一読を強くお勧めする。


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