先に国際共同研究の推進について書いたが、今日も一つの研究目的について論じたいと思う。それは、研究方法を開発する研究である。
研究方法の開発というのは、研究で使用される道具や手法の発明と開発を指す。例えば、顕微鏡の開発はその例で、電子顕微鏡はこの100年の間の例である。このような研究は基礎研究ではないので、軽視される傾向があるだろうが、実は論文の引用などで測れば、世界一の研究分野である。なぜなら、新しい手法を発明したら、その手法を使う研究者は必ず紹介する論文に注を入れるからだ。だから、英語でcitation indexという指数で研究の本質を測ろうとしたら、研究の手法の開発に重点を置くべきだ。
確かに、そのような指数によって研究が歪まれる恐れがあるので、それほど重視しないほうが良い。それでも、このような研究は重要である。
まず、新しい手法や道具によって、前は無理だった研究はできるようになった。簡単に理解できる例は、月の反対側の測定である。宇宙船は存在しない限り、それは無理だった。宇宙船が開発されたら、できるようになったし、現在は難しい研究だとは言えない。(費用はまだまだかかるけれども。)無理であった研究が可能になったら、新しい発見は期待できる。それより、新しい分野を拓く時点で、重大の発見はいつもより期待できる。この発見によって、人間の可能性は拡大すると思えるので、人間の実質的な自由に貢献する。
そして、道具などの開発によって、費用や手間は重かった研究が手軽にできる研究になる。ゲノムの検査がその著しい例であろう。14年までに人間のゲノムは、1兆円ぐらいの費用で明かされたが、現在は100万円もかからない。そのため、癌細胞のゲノムを検査して、適切な治療法を選択することが可能になって、これから癌の治療法に大きな影響を与えると期待されている。「可能」というのは、卓上に可能である研究もあるし、実際にある大学の研究室で可能である研究もある。真新しい手法の開発は、卓上の可能性と大きく関わるが、費用と手間を軽減する開発は、実際の可能性と関わる。費用と手間が軽くなった手法は、研究者の実質的な自由を増すし、社会から必要とされる援助も軽減するので、社会の期待できる成果が拡大する。その上、国民の自由への貢献は期待できない研究は、民間の援助でできるようになることもある。
だから、国家の研究機関がこのような研究の重要性を明確に認めて、指定された研究基金を設けた方が良いと思う。