扉が後ろに閉まったら、真理安が急いで図書室の奥へ向かった。華多離菜は後を追って、おずおずと周りを見た。
「ねえ、真理安さん、本当に誰もいないの?」
「本当。司書は一人しかいないだろう。そして、夜に寝る。寝る必要はない化け物ではないだろう。」
「それは、確かですか?」華多離菜の声は本当に心配そうだったので、真理安も立ち止まって、一瞬強くなってしまった。
「イヤァァ。そっか。いや、そうじゃない。寝室もあるし、食堂で皆と一緒に食べるし、風呂場でも見たことがある。化け物はずはない。」
「そうですよね。」
「学堂の一員ではない場合の措置は充分だ。余所者はここまでこられるはずない。誰もいないに決まっている。きっと。」
「そうですね。おっしゃる通りですよね。」
「うん。そうだ。じゃ、行こう。」
華多離菜の頷きを待ってから、真理安がまた図書館の奥へ向かって、幕の前で止まった。華多離菜も隣で立って、幕を見た。星空を部屋の真ん中にかけたように、暗闇の遠く奥で光が点々灯されていた。隙間は右にも左にも目当たらなかった。
「どうやって入りますかしら。」
「司書を見たんだ。ちょっと待って。」
真理安が目を閉じて、深呼吸をしながら手を頭の上まで上げて、拳に握った。そして、つぶやきながら唱え始めた。
「無知の闇の奥に潜む宝よ。先代の実りが貯まる蔵よ。悟りの鍵を握る罠よ。私の心眼に聞いて、私の手に答えて、私の身に開け。」
言葉が終わると、真理安が手を開いて、掌から炎が立ち上がる。両手を上で合わせて、さっと下げた。
その前で、暗闇の幕が裂いて、左右に退いた。奥には、影に包まれた本棚が遠くまで続いていた。真理安が黙って入口をくぐって、入ったが、幕が閉まろうとする前に華多離菜も急いで入って、友達と一緒に並んだ。
「本当に入れたもの。」真理安が自慢顔で華多離菜を見た。
「だろう。私は出来るもん。」
「半分疑いましたわ。」
「半分?」
「6分の5かしら。」
「入れないと思ったから一緒に来たんじゃない?」
「違いますわ。」
「本当?」
「本当ですもの。本当に思ったのは、真理安さんが入れればこそ、私には見守るべきなのです。」
「そっか。僕は安心よ。」
「ですからこそ、私は不安ですわ。」
「えっ?おい、何を言っているんだ!僕は危険物扱いかい?」
「答えかねます。」華多離菜は半分笑っていたので、真理安も笑った。
「はい、はい。では、本を探そう。」
「特別な本を考えていますか?」
「そうです。大学の歴史の本。裏話。」
「真理安さん、一体何を企んでいますか?」
「女列安道先生、頭魔主大師に見せる、僕の才能。」