神巫と天宇受売神

天宇受売神は、記紀神話で天岩屋戸の神話で岩屋戸の前で神がかりになって舞う神様だが、それに天孫降臨の段では瓊瓊杵命の降臨に先駆して、猿田彦命と交渉する神様でもある。『古語拾遺』によると、天宇受売神が猿田彦命と交渉しに行った理由は、他の神様には勇気が足りなかったからだという。つまり、天宇受売神は、神楽の神でもあるし、恐ろしい神に近づいて交渉する神でもある。これを踏まえて、神巫の守護神として決めた。前にも触れたが、記紀神話や『古語拾遺』ではこの神の系譜は明らかではないので、神産霊神社の社伝では高神産霊神と嘉神産霊神の御子神として位置付ける。

神巫が神巫として奉仕する前の最後の神事は、天宇受売神と関わる。天宇受売神の神社で斎行する。

この神事の中心は神楽となるのは当たり前だろう。一夜を眠らずに夜更かしして、複数の神楽を奉納して神様の霊力をいただく形となる。日没が終わったら、神巫が拝殿に入って、神楽の衣装などを用意する。そして、修祓を行う。それから、扉を開けて、祝詞奏上する。この祝詞で、神事の趣旨を説明する。続いて、火を打ち出して、御饌の調理を行う。この御饌は質素なもので、もしかしてご飯とお水とお塩のみとするだろう。調理ができたら、容器に置く。それから、神楽の儀に入る。

神楽ごとの次第は次の通りとする。神巫が拝殿でその神楽の衣装に着替える。そして、御饌の一部を三方などに載せて、本殿に入る。本殿で、神饌を供えて、神楽の趣旨を報告する祝詞を奏上する。続いて、神楽を舞う。舞ったら、神様と一緒に食事をしてから、本殿から出る。拝殿で休憩をする。一夜になるし、水分を取らなければならないし、食べるので、お手洗いに行くこともあるだろう。そのために、拝殿に施設を用意するが、トイレに行ったら、拝殿に戻る前に簡単な禊を行う。

神楽の儀が終わったら、徹饌の儀を行って、扉を閉めて拝殿から衣装を持ち出す。これで、神巫の奉仕のための準備は完了である。

さて、装束と神楽の内容を考えよう。

最初の神楽は、比較的に穏やかで、鈴で空間と心身の用意をする所作になると思う。この神楽の衣装は、巫女の衣装とする。この衣装で神社に入って、調理などを準備を行う。

二つ目の神楽は、仮面をつけて、天宇受売神の神話を演じる神楽とする。この神楽で、天岩屋戸と猿田彦命との神話も、確か伊勢国風土記の逸文で残された魚との交渉も演じる。激しいところはある。この神話で、天宇受売神は衣を乱れて、胸などを顕とするので、神楽でも同じ行動がある。

三つ目の神楽はクライマックスで、神がかりを象徴して、この神楽の途中で神の霊力をいただくことを想定する。この神楽は、激しくて、素裸で舞う。

四つ目は、神巫の奉仕を象徴する神楽で、襷と蔓のみを身にして、奉仕の所作を見せる。この神楽は主に穏やかだが、神楽を象徴する神楽で激しいこともあるだろう。

最後の神楽は、榊を摂り物として、神巫の普段の衣装で行う。これも穏やかな神楽として、天宇受売神へ感謝を表す神楽とする。これで、神巫の装束で出るので、これも儀式の完成を象徴する。

裸の神楽が入るが、指摘しておきたいことは、原則として神巫一人だけがいることだ。神巫以外の人は、そもそも本殿に入るわけにはいかないし、他の神巫でも、準備を同時に行っていない限り、入らない。(だから、装束のすべては一人に着付けできることは重要な前提となる。)この裸を見るのは、裸になる神様に限る。

ところで、神巫の普段の装束はまだ決まっていない。それは、ちょっと考えたいと思う。


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